Vol.01 | SANAA×宮田裕章

特別対談 「境界を開き 響き合う体験を」

天井も壁もないパビリオンはどうして生まれたのか――。宮田プロデューサーが世界的建築家ユニットでCo-beingパビリオンのデザインを手がけたSANAAの妹島和世さん、西沢立衛さんを迎え、万博史上類を見ない建築に託した思いについて語り合いました。

人が集い 文化が生まれる

宮田 今回の万博会場の中心には、人工物ではなく「静けさの森」という森が置かれています。再生可能な資源であり、群体として多様な生態系を育む森が中心にあるというのは、「共に歩む」「お互いがつながる」という万博のコンセプトを非常によく象徴しています。そこで、この森とつながるようなパビリオンにしたいと思い、以前から尊敬していたSANAAのお二人に制作をお願いしました。SANAAの建築は、金沢21世紀美術館やルーヴル・ランスなどに代表されるように、境界が開かれ、そこに人々が集い、つながり、地域に新しい文化を生む空間になっていますよね。

金沢21世紀美術館

ルーヴル・ランス

妹島 建築家として、どのようにしたらいろいろな人が集える場所を作ることができるのか、常々考えています。今回は、宮田さんのお話をお聞きして、特別な体験をパビリオンの中だけで終わらせるのではなく、外に出た後も中と連続する一体感のある体験ができるといいなと思っています。

西沢 そもそも建築物は、空間を「占拠」するところがあります。その意味では、建築のありようそのものが「共有」を空間的に表すことができれば、それは面白いことだなと思うのです。そんなメッセージを持った建築という発想から、「天井や壁のない」森とつながった多機能性のものがいいだろうと考えました。

宮田 天井も壁もないパビリオンだと伝えたら、(キュレーターの)長谷川祐子さんにすごく驚かれましたけどね。でも、これからは、農耕社会や産業社会のように食料なり資源なり、消費すればなくなってしまうものを排他的に所有して奪い合う社会ではありません。再生可能エネルギー然り、デジタルデータしかり、「共有すること」が未来につながる非常に重要な概念となってきます。

西沢 宮田さんは、「共有することで価値を持つ情報がある」とおっしゃっていました。探究したくなる面白いテーマだと思いましたし、これをどう空間に置き換えられるだろうかと考えました。

宮田 「共有することで得られる価値」で分かりやすいのは、データの集積ですよね。人々がデータを分かち合うことで共創することができます。でも、データに限らず、本来世界はつながっているものです。たとえばサプライチェーンにおいても、様々なことがデジタルによって可視化される今、生産過程や消費後に労働搾取や大きな環境負荷が存在していたら、もはやビジネスとして成立しません。全体のつながりの中で、どう価値を生みだせるのか、「共存」はきれいごとでもなんでもなく、否が応でもみんなが考えざるを得ないんです。

「共鳴」から広がる 未来の可能性

宮田 一人ひとりを尊重しながら、多様ないのちとどうつながるのか。「Co-beingパビリオン」は、「共につながり、共に生きる」ことが未来の可能性を広げる重要なキーワードになると考え、名付けました。人と人、人と自然、人と世界が共に“より良く”あること。ですので、私はいつも「Better Co-being」と言っています。

西沢 そう考えた時、箱的なパビリオンが建っているのではなくて、境界を越えるような建築、中と外がつながる空間がよいなと。

妹島 そうなんですよね。それで、人が出たり入ったり、雨も風も入ったり、森みたいな建築にしようと考えました。森では、雨が降っても木の下なら少ししのげます。ですから、そこはちょっとした装置を取り入れて。

宮田 屋根ではありませんが、木と同じくらいの高さに繊細な雲のようなものを設置するんですよね。何と呼べばいいのか分からないんですけれど、これが本当に「空間をつなげながら広がっていく」一つの舞台装置のようで素晴らしいんです。

妹島 完全にはコントロールできない空間なので、そこは天候の変化を感じながらインタラクティブに楽しめる場所になると面白いだろうなあと思っています。

宮田 きっと多くの方が「雨の日はどうなるの?」と思っていることと思いますが、そこはその時の天候を活かした楽しみ方を考えています。ですから、季節や天気、今そこに集っている人々、初来場なのか再来場なのか、その時々や個々人によって体験できるものは異なります。そう考えると、とても演劇的な空間でもありますよね。境界のないパビリオンなんて、万博史上初でしょうけれど。

Co-beingパビリオンイメージ

妹島 今、インターネットやいろいろなメディアが発達して、それらを通じて遠い場所からバーチャルに参加することもできます。でも、だからこそ、万博は出会ったり触れたり感じたり、物理的に体感することが楽しいと思える場所にしたいですね。

西沢 快適な場所って何だろうかと考えた場合、北極圏で暮らすイヌイット族と、アジアの我々とでは感じる「快適さ」が全然違います。快適性は気候風土、地域性と一体のものなのです。万博が地球の縮図だとするなら、今回価値観の一つとして、私たちが古来心地良いと感じてきた快適性というのは、このような明るく風通しのよい、透明な空間なんですとストレートに表現することは、重要だと思います。

宮田 SANAAのお二人は建築家として、普遍的なものこそ未来に残っていくということを追求されてきました。私自身も、未来につながる価値は奇をてらったものではなく、歴史的な普遍性の中に見出していくことがとても重要だろうと考えています。何度来ても楽しんでいただけるパビリオンにしたいですね。

Profile

SANAA

妹島和世(せじま・かずよ)、西沢立衛(にしざわ・りゅうえ)による建築家ユニット。1995年にSANAAを設立。2004年ヴェネチアビエンナーレ国際建築展金獅子賞、10年プリツカー賞など数多くの賞を受賞。主な作品に、金沢 21 世紀美術館、ニューミュージアム ( アメリカ)、ルーヴル・ランス(フランス)、グレイス・ファームズ (アメリカ)、日立市新庁舎など。