蜷川実花×宮田裕章
大阪・関西万博が開幕から3か月を迎え、会場は熱気に包まれています。そこで、シグネチャーパビリオン「Better Co-Being」について、宮田プロデューサーと、「宮田裕章 with EiM」として同パビリオンのインスタレーション制作に携わった写真家・映画監督・現代美術家の蜷川実花さんが語り合いました。多様な人々が集う万博で「一つの空を見る」体験は、どんな気づきをもたらすのでしょうか。
宮田 開幕から3カ月がたち、関西の方たちをはじめ皆さんの活気によって素晴らしい盛り上がりを見せています。祝祭の雰囲気の中、多様な未来に触れていただいている実感があり、それが何よりうれしいですね。
蜷川 今回、私は「最大多様の最大幸福」をテーマとした光のインスタレーションを手がけました。宮田さんのビジョンに寄り添いながら、それをどのように視覚化するか、思考を深めていくプロセスがとても刺激的でした。
宮田 蜷川さんが配列し、同じ並びが一つとしてないクリスタルは、来訪者それぞれに強く深く届く訴求力があり、天候や時間帯によって異なる体験ができます。「最大多様の最大幸福」というコンセプトを狙い通りに表現してくれました。
蜷川 夜や雨の日も魅力的なんですよね。天候による光の移ろいは、予想以上に人々の心を動かす効果を生んだと思います。無色透明のパーツのみで構成するという制約は挑戦でもあり、だからこそ、光に対する写真家としての感覚が生きたなと感じています。
宮田 予約制のBetter Co-Beingですが、夜に自由観覧の時間帯を設けていて(※)、それを提案してくれたのも蜷川さんでした。
(※現在は夜に加え朝の自由観覧も実施中)
蜷川 宮田さんが意図するアート体験は限られた人数でないと難しいけれど、一方で短時間でもいいから、誰でも入場できる開かれた時間があるといいなと思ったんです。
宮田 今、多くの方にご来場いただき、共鳴をご体感いただいています。
宮田 「開かれた」というのも、今回の万博のキーワードです。構想の初期段階から大屋根リングを手がけた藤本壮介さんとは「一つの開かれた空」を象徴として掲げていました。万博には多様な人々が集まるけれども、多様でバラバラなことだけを強調しても万博に集う意味がなくなってしまいますから。
蜷川 「開かれた空」という言葉の意味が、実際に歩いてみて腑に落ちた気がします。豊かな体験でした。
宮田 大屋根リングと静けさの森、そしてBetter Co-Beingは「空を見る場」として設計されていますので、ぜひこの三つをひとつながりでめぐっていただきたいですね。その中で静けさの森とBetter Co-Beingは、アートを軸により内省的な“問いを開く”場として位置づけています。
蜷川 観念的で難しいと思われがちですけれど、事前情報がなくても目で見てとても楽しめる場所になりましたよね。
宮田 大屋根リングもスロープ構造になっていて、どの場所からも連続的な空を感じることができます。しかも、あのリングは人が目視できる最大限のスケールで造られているので、数万人が一緒に夕焼けを見るという体験も可能にするんです。
蜷川 確かにリングの反対側にいる人々の姿もしっかり捉えられます。「ともに同じ空を見る」ことで、宮田さんがいつもおっしゃっている「異なるままに響き合う」を体感できるんですよね。
宮田 ええ。今回の万博では、各パビリオンが多様な未来の可能性を描き出しています。家族でどこが良かったか話し合うなどして、よりよい未来とは何か、ぜひ自身の問いを広げる機会にしていただきたいと願っています。
蜷川実花
写真家、映画監督、現代美術家
写真を中心として、映画、映像、空間インスタレーションも多く手掛ける。クリエイティブチーム「EiM(エイム)」の一員としても活動中。
木村伊兵衛写真賞ほか数々受賞。2010年ニューヨークのRizzoliから写真集を出版。また、『ヘルタースケルター』(2012年)、『Diner ダイナー』(2019年)をはじめ長編映画を5作、Netflixオリジナルドラマ『FOLLOWERS』(2020年)を監督。
これまでに写真集120冊以上を刊行、個展150回以上、グループ展130回以上と国内外で精力的に作品発表を続ける。
個展「蜷川実花展with EiM:彼岸の光、此岸の影」(京都市京セラ美術館、2025年1月-3月)は、25万人を動員。
最新の写真集に『Eternity in a Momentvol.1‒3』(Akio Nagasawa Publishing & Case Publishing、2024年)がある。
https://mikaninagawa.com
主な展覧会/グループ展「I’M SO HAPPY YOU ARE HERE」Palais de l'Archevêché、2024年
グループ展「Tokyo : Art & Photography」アシュモレアン博物館、2021年‐2022年
「MIKA NINAGAWA INTO FICTION / REALITY」北京時代美術館、2022年
「蜷川実花展」台北現代美術館(MOCA Taipei)2016年